現物不動産投資と不動産トークン投資で『手続き』はどう違う? - 契約から税金までを比較解説
はじめに:現物不動産投資家が感じる『手続き』の負担
長年、現物不動産に投資されてきた方の中には、日々の管理業務に加えて、物件の取得や売却、税務申告など、様々な手続きに時間や手間がかかることを負担に感じていらっしゃる方も少なくないかと存じます。不動産トークン投資は、こうした現物不動産投資につきものだった「手続き」を大きく変える可能性を秘めた新しい投資手法です。
しかし、新しい技術である不動産トークン化に対しては、「具体的に何がどう変わるのか」「本当に手続きが楽になるのか」「安全性は大丈夫なのか」といった疑問や不安もおありのことでしょう。特に、これまでのご経験から不動産に関する手続きの重要性を理解されているからこそ、その変化について詳しく知りたいとお考えかもしれません。
この記事では、現物不動産投資家である皆様がご経験されてきたであろう主な手続きを挙げ、不動産トークン投資ではそれがどのように変わるのか、具体的に比較しながら解説いたします。不動産トークン投資がもたらす手続き上のメリットや、注意すべき点についても触れてまいります。
現物不動産投資における主な手続きとその負担
まず、現物不動産投資において一般的に必要となる手続きをいくつか振り返ってみましょう。
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物件の取得・契約に関する手続き 興味を持った物件が見つかっても、すぐに取得できるわけではありません。不動産仲介業者とのやり取り、物件の内覧、重要事項説明書の確認、売買契約書の締結など、多くのステップを踏む必要があります。多くの書類に目を通し、内容を理解し、場合によっては専門家(弁護士など)に相談することも必要になります。対面でのやり取りや印鑑証明の準備など、物理的な負担も少なくありません。
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ローンに関する手続き 物件価格の一部または全部を金融機関からの融資で賄う場合、ローンの申し込み、審査、契約といった手続きが発生します。金融機関との複数回の面談や書類提出など、煩雑なプロセスを伴うことが一般的です。
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登記に関する手続き 物件の所有権を自身に移転するためには、法務局での登記手続きが必要です。司法書士に依頼することが多いですが、そのための書類準備や司法書士とのやり取りが発生します。抵当権設定登記など、ローンに関わる手続きも伴います。
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物件の管理に関する手続き 賃貸物件の場合、入居者の募集、賃貸借契約の締結・更新、家賃や共益費の集金、滞納時の督促、設備の修繕手配、入居者からの苦情対応、退去時の立ち会いと原状回復手続きなど、多岐にわたる管理業務が発生します。これらを自身で行うか、管理会社に委託するにしても、管理会社との定期的な報告や指示・確認のやり取りは発生します。
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物件の売却に関する手続き 物件を売却する際は、複数の不動産仲介業者から査定を取り、売却活動を依頼することから始まります。購入希望者の内覧対応、交渉、売買契約書の締結、決済、そして所有権移転登記と、取得時と同様かそれ以上に時間と労力がかかる場合があります。
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税務に関する手続き 不動産を取得した際の不動産取得税、保有期間中に毎年かかる固定資産税や都市計画税、賃料収入に対する所得税(不動産所得)、そして物件を売却して利益が出た場合の譲渡所得税など、不動産投資には様々な税金が関わってきます。特に、毎年の確定申告では、賃料収入や経費、減価償却費などを正確に計算し、申告書を作成・提出する必要があります。これは非常に専門的で煩雑な作業であり、税理士に依頼される方も多いかと存じます。
これらは現物不動産投資における手続きのごく一部ですが、経験豊富な投資家の方々であれば、こうした手続きにかかる時間や精神的な負担をよくご存知のことと存じます。
不動産トークン投資で変わる『手続き』の具体例
では、不動産トークン投資では、これらの手続きがどのように変化するのでしょうか。
不動産トークン投資は、多くの場合、匿名組合契約や合同会社社員権といった権利を裏付けとしたデジタル証券(セキュリティ・トークン)を購入する形で行われます。この「権利」は特定の不動産を対象とし、その不動産から得られる賃料収入や売却益を分配金として受け取る権利、などが含まれます。
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投資(購入)手続き 多くの不動産トークン投資は、オンラインのプラットフォームを通じて行われます。まず、プラットフォームの会員登録と本人確認(eKYCなどオンラインでの手続きが主)を行います。その後、プラットフォーム上で公開されている案件情報(対象不動産、期待利回り、運用期間、リスクなど)を確認し、投資を申し込む流れとなります。投資金額は小口化されているため、数万円から数十万円といった単位で投資が可能です。契約はプラットフォーム上で行われ、出資もオンライン送金などで完結することが一般的です。煩雑な書類の郵送や対面での契約手続きは不要となるケースが多いです。
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ローンに関する手続きの不要性 不動産トークン投資では、投資単位が小口であること、また購入対象が不動産そのものではなく「権利」であることから、金融機関からの融資を受けて投資を行うことは一般的ではありません。自己資金の範囲内で投資を行うため、ローンに関する面倒な手続きは発生しません。
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登記に関する手続きの不要性 不動産トークンを購入しても、対象となる不動産そのものの所有権を得るわけではありません。あくまで不動産から生じる収益を受け取る権利などを取得する形となります。そのため、現物不動産投資のように、法務局で所有権移転登記を行う必要はありません。権利の移転はブロックチェーン上の記録によって行われ、透明性が確保されます。
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物件管理に関する手続きの不要性 不動産トークン投資の大きな特徴の一つが、投資家自身による物件管理が一切不要である点です。対象不動産の管理・運用は、その道のプロである運営会社(SPCなど)に全て一任されます。入居者募集、家賃集金、建物の修繕、トラブル対応など、現物投資家がこれまで担ってきた、あるいは管理会社に委託してやり取りしてきた煩雑な業務は、全て運営会社が行います。投資家は、運営会社からの報告書や分配金の受け取りを待つだけで済みます。
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売却(譲渡)に関する手続き 投資した不動産トークンを途中で売却したい場合、多くのプラットフォームには投資家同士がトークンを売買できる「セカンダリマーケット」が用意されています。このセカンダリマーケットを利用することで、オンライン上で希望価格を設定して売りに出し、買い手が見つかれば売却手続きが完了します。現物不動産のように仲介業者を探したり、内覧対応をしたり、複雑な売買契約を結んだりといった手間は不要です。ただし、セカンダリマーケットの利用可否や流動性(買い手の見つけやすさ)はプラットフォームや案件によって異なります。また、運用期間満了時には、対象不動産の売却などが行われ、投資金額に応じた分配金(償還金)を受け取る形となります。
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税務に関する手続き 不動産トークン投資で得られる収益(分配金や譲渡益)には税金がかかります。多くの場合、これらの収益は所得税の「雑所得」として扱われる可能性がありますが、個別の案件や契約形態、また投資家の状況によって判断が異なる場合もございます。現物不動産投資の「不動産所得」や「譲渡所得」とは計算方法や申告方法が異なる可能性があるため、注意が必要です。複雑な経費計算や減価償却計算が現物投資ほど必要ない場合もありますが、確定申告自体は必要となります。税務に関する具体的な取り扱いは非常に専門的であり、個別の状況によって異なるため、必ず税務署や税理士といった専門家にご相談されることを強く推奨いたします。
手続きの変化がもたらすメリット・デメリット
こうした手続きの大きな変化は、投資家にとって様々なメリットとデメリットをもたらします。
メリット
- 管理負担の劇的な軽減: 最大のメリットは、物件管理から完全に解放される点です。これは、日々の管理に時間を取られたくない方や、複数の物件に分散投資したい方にとって非常に魅力的です。
- 手続きのオンライン化・簡略化: 投資の申し込みから売却(譲渡)まで、多くの手続きがオンラインで完結します。これにより、時間や場所を選ばずに投資活動を行うことができます。
- 投資単位の小口化によるアクセス向上: これまで多額の資金が必要だった不動産投資に、少額から参加できるようになります。
- 迅速性: 手続きがオンライン化・簡略化されることで、契約や権利移転が比較的迅速に行われる可能性があります。
デメリット
- 物理的な確認の限界: 手続きがオンライン中心となるため、現物不動産のように物件を直接見て状態を確認したり、周辺環境を肌で感じたりすることができません。提供される情報(写真、動画、レポートなど)に基づいた判断が中心となります。
- プラットフォームや運営会社への依存: 手続きの多くがプラットフォームや運営会社を通じて行われるため、その信頼性や運営体制に投資の成否が大きく左右されます。
- 簡略化による理解の難しさ: 手続きがブラックボックス化していると感じる場合、仕組みの理解が難しくなる可能性があります。ご自身が何に対して投資しているのか、契約内容を十分に理解することが重要です。
- 税務上の複雑さ: 新しい投資形態であるため、税務上の取り扱いが従来の不動産投資とは異なり、判断に迷う場合があります。
安全性への配慮:手続きが簡略化されても油断は禁物
手続きが簡略化されることはメリットである一方、「本当に大丈夫なのか」「見えないところで問題が起きていないか」といった不安につながる可能性もございます。特に、現物投資で培われた「自身の目で確認し、手続きに関与する」という経験からすると、その違いに戸惑われるかもしれません。
不動産トークン投資における安全性を確保するためには、以下の点に留意することが重要です。
- 信頼できるプラットフォームの選択: 金融庁に登録された信頼性のある事業者(不動産特定共同事業法に基づき許可を受けた事業者など)が運営するプラットフォームを選びましょう。運営会社のこれまでの実績や財務状況なども確認する価値があります。
- ブロックチェーン技術の活用: ブロックチェーン技術は、権利の記録や移転履歴の透明性・改ざん防止に貢献しますが、それだけで投資対象の不動産自体の価値や運営会社の信用を保証するものではありません。
- 契約内容の十分な理解: 投資を申し込む前に、提供される情報だけでなく、匿名組合契約書や事業計画書、重要事項説明書などを隅々まで確認し、投資対象、収益分配の仕組み、リスク、運営体制などを十分に理解することが不可欠です。分からない点があれば、必ず事業者に質問しましょう。
- 怪しい案件に注意: 「元本保証」や「高利回り」を過度に強調する案件、運営会社や責任者が不明確な案件、契約内容が曖昧な案件には十分警戒が必要です。現物不動産投資と同様、リスクが全くない投資は存在しないことを理解しておくことが重要です。
手続きが簡略化されたからといって、投資判断のための確認作業や情報収集を怠って良いわけではありません。むしろ、物理的な確認が難しい分、提供される情報の精査や、プラットフォーム・運営会社の信頼性確認がより重要になると言えるでしょう。
まとめ
不動産トークン投資は、現物不動産投資と比べて、取得、管理、売却、そして税務に関する「手続き」を劇的に簡略化する可能性を秘めています。特に、これまでの現物投資で管理の手間に負担を感じていた方にとっては、管理業務から解放されるという点は大きな魅力となり得ます。オンラインで手続きが完結する手軽さも、新しい投資体験を提供するでしょう。
しかし、手続きが簡略化されることは、見方を変えれば投資家自身が直接関与できる範囲が狭まることを意味します。物理的な確認ができないことへの不安や、プラットフォームや運営会社への依存、そして新しい形態ゆえの税務上の判断の難しさといったデメリットも存在します。
不動産トークン投資のメリットを享受しつつ、リスクを抑えるためには、手続きが簡略化されたからといって安易に投資するのではなく、信頼できる情報源やプラットフォームを選び、提供される情報を慎重に吟味し、契約内容を十分に理解することが何よりも重要です。
まずは、興味のあるプラットフォームでどのような案件が扱われているのか、どのような手続きが必要になるのかといった情報を収集することから始めてみてはいかがでしょうか。ご自身のこれまでの不動産投資のご経験と照らし合わせながら、不動産トークン投資がご自身の投資スタイルや目的に合致するかどうかを検討される一助となれば幸いです。